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第1章 5話 封印石 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 飛空艇の中は壊れる前とさほど変っていなかった。殺風景だった通路もそのままだ。 だが案内されても飛空艇の中は異様なほど大きく解りづらいだけだった。 ユースの能力のせいだろうか、どうやら飛空艇には創り出された空間も交じっているようだ。 談話室のような部屋にヴァンは案内された。 だがそこにアーチェとジルハの姿はなかった。 ソファーに座り、ユースは"封印石"の説明を始めた。 「"封印石"、それは私の一族――エルエン族が護人として護リ続けてきた特殊な石です。 この欠片の完全体です。封印石にはあるものが封印されていると聞いています」 「あるものって何だ?」 ヴァンは遠慮なくユースに訊いた。 「……正確ではないのですが"禍"といわれています」 「……ふーん。でもなんでその石が割れたんだ。そんな大事なものならなおさら――」 「10年前、私達の一族は……魔族に襲われ、私1人だけ生き残りました」 ヴァンはそれを訊き何故かと言葉を発しようとしたが躊躇った。 生き残り、彼女の一族はもう皆いない。そう考えるとヴァン自身辛いものがあった。 ユースは言葉を噤んでいたが、重たい声で話しを続けた。 「そのときなにかの力が働き封印石が10数個に割れ世界に飛び散ったんです。 その欠片1つだけでも大きな力が働きます。 私の創った異空間――結界を張りその力が及ばないようにしています。 けれど近年災害による被害、国が滅びるなど 封印石がおおきくそれに影響しているのは間違いありません。 だから私は集めきらなくてはならないんです。エルエン族の生き残りとして」 彼女は悲しい過去をゆっくりと語った。 初対面の自分にそこまで話していいのだろうかと思ってしまうほどだ。 「なんで……そんなことがわかるんだ? その……封印石のせいじゃないかもしれねえじゃん」 「由来はあるんです…私の一族に伝わった予言ですよ。 5千年前程に予言が私の一族に伝えられていました」 予言が総てを語っていると言いたげだった。 ユースはそっと息を吸うとゆっくりと予言を述べた。 我指し示す 進むべき路の果て 汝らの次元 五千の時を越え 三界の封印は解ける 一を蝕むは力なり 割れた世界 元には戻らぬ 世に禍をもたらす力 拒めば契れる 闇に誘へ 闇に帰せ 汝の罪 トレジャーハンターとしてそれなりに活動もしてきた彼だったが、 どうしてもその予言が呪文のようにしか聞こえなかった。 「よ、よくはわからねぇけど、その封印石を集めねーと禍が起こるって事なんだろ。 でも欠片が集まりきったらどうなるんだ?」 「私にもよくわかりません。まだこの予言も解読途中ですし……けれどまた再度封印します。 それが私の役目……使命なんです。 それに早くしないといけない気がするんです。魔族も動き始めていますし……」 ユースは心配した様子で言った。 「なんで魔族が? 魔族って"人界"には干渉しないはずじゃないのかよ?」 ヴァンは疑問に思った。"魔族"、それは地界に住む人のことを指す。 彼は魔族に対しての知識をあまり持ってはいなかったが存在は知っていた。 真紅の瞳を持ち、魔術を使う特殊な一族――だが彼自身会った事はない。 知っているのは自分らの世界――人界には干渉しないということだけだ。 「それもよくは解りません。魔族が住んでる"地界"にはあまり関係ないことなんですが」 「そっか……」 ヴァンは納得したようだった。 深いことを聞いてもどうせ最後は裏切るつもりだ。 彼がいままでやってきたことといえば情報を多く引き出すこと。 それが紅月で役に立つかはわからないが―― 「今集めた欠片のはどれくらい?」 「約……4分の1程度でしょうか――」 話を進んでいくうちに部屋の扉が勢いよく開いた。 そしてやってきたのはアーチェだった。 その後ろにはジルハとフォールがいた。 「ユース様、準備ができました」 「そうですか。ありがとうございます」 ユースは笑みを浮かべながら言った。 その表情にヴァンは悪寒を感じた。 「なんの準備だよ」 「決まってるだろう」 すこし冷めた声でジルハがヴァンに言った。 「お前の能力の扱い方が下手でさっきこの飛空艇が落ちたんだ。 だから俺とアーチェで特訓するんだよ」 ジルハの顔からすこし笑みがこぼれた。 「はあああぁぁぁ?」 ヴァンは言ってる意味がわからなかった。 「ということなんで頑張ってください」 ユースはそう言うとヴァンに微笑んだ。 その表情返しに彼は顔が引きつった。やっぱり直ぐに裏切ればよかったか―― 「アーチェ、彼を頼みますね」 ジルハはフォールに縄に変化するように言い 変化した縄をヴァンの首にかけて引っ張った。 動物を扱うかのような行動にヴァンは怒りがこみ上げる。 だが反論することしか出来ない。 「痛っ! やめろこの野郎! まだ話が終わってねーんだよ! っておい、聞いてんのかよ!」 ヴァンはジルハにそういったがずるずると引きずられていた。 正直ジルハの鬱憤をはらすような感じだ。 「ユース様。すこしお休みになられては……? 今日は能力を使いすぎたはずです」 アーチェは心配そうに言った。 「大丈夫ですよ。とにかくヴァンさんを頼みます」 「……どうして彼を連れて行くのですか、私には理解できません」 「……何故でしょうね」 実際のところ既に彼女の中での答えはでていた。 たとえ反対されようが、これは自分の裡で決めた事だ。 だがそれをアーチェの前で言うのは気が引けたのだ。 「アーチェ、ちょっと独りになりたいので……はずしてくれませんか?」 「解りました……」 アーチェが出て行くのを見送りユースは部屋に残った。 そして独りきりになった瞬間彼女は首にそっと手をあてた。 青く幅広いベルトのようなものを首に巻いているのだ。 「……もう、時間は残っていませんね」 ユースは一人呟いた。自分に言い聞かせるように―― ヴァンを連れて行く理由、それは憧れだったのかもしれない。 自分にはないもの、自由に満ちている。これは賭けだ。 飛空艇から見えた空は闇に満ちていて、彼女の心そのものだったのかもしれない。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― |