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第2章 6話 能力と左腕〜真紅の瞳〜 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ヴァンが飛空艇に忍び込み、旅に同行することになって1週間が経過した。 逃げ出そうとすれば出来た事なのだが、彼はあえてそうしなかった。 紅月に戻ることはできないからだ。彼のプライドがそうさせたのだ。 そしてユースの事が気になってしまった。 自分の周りには人から盗む事をして、生活をしているものが多かったが、彼女は違った。 自分の"使命"をやり遂げようとしているのからだ。 「……1週間前に比べれば大分操れるようになったわね」 「そりゃどーも」 小さなため息をつきながら、疲れ果てたヴァンがそうに答えた。 アーチェも一週間前に比べれば自分に対する殺気も大分消えていた。 「でもさぁ、なんで俺の能力は剣がないとダメなわけ?」 そう言いながらヴァンの持っていた剣が光だし火が纏いはじめた。 炎を次第に操れるようになるまでだいぶ時間がかかったが、 どうしても剣が無いと炎はでなかったり暴走したりした。 「さぁ……あたしにもよく解らない、能力を操るのは自分自身の感情と心。使い方は自分次第よ」 「感情と心ねー、でもこれはこれで不便な能力だよな」 自分の心内をしっかりと見据えたことはなかった。 しっかり考えなくてはいけないこともあったが今の彼にはそんなことどうでもよかった。 「……お前がやる気ないだけだろ。まっ、そこまでの人間って事だな」「ピュウ」 扉の前で見ていたジルハとフォールが言った。 どこかふてくされている。 「なんだと……お前には能力すらねえじゃんか!」 「ユースさんに創造してもらった能力のくせにな…… それにお前は能力ある人間だけが強いと思ってんのか? やっぱし馬鹿だな」 「……なんだと、このチビっ!」 「やるかこの馬鹿!」 お互いタブーの言葉を引き当ててしまったせいか、 口喧嘩はいっそう激しく頭上を飛び交った。 その中で一番あきれていたのはアーチェだったのは言うまでもない。 「……またか、今日何回目よ……」 大きな溜息をついても2人は気付かず口喧嘩は続く。 アーチェは頭を抱えながら部屋を出て行った。 「やるかっ! このやろう!」 「ハッ、能力も使いこなせないのに俺と戦う気か」 ジルハの挑発にヴァンはのり、鋭い剣を抜き構えた。 剣先が紅い光を発し、焔が舞うと火の粉は無数に飛び散った。 「勝負はどちらかが倒れるまで」 纏った火はヴァンの能力、彼だけ熱さ感じない。 だが場所は風通しのよい飛空艇だ。熱風となってジルハを襲う。 「……能力使うなら俺は――」 ジルハがそういうとフォールは光を発し変化した。 「左腕?」 ヴァンが見た先には先ほどまでなかったジルハの左腕だった。 左手の甲にフォールの額にあった赤い石がついていた。 何か違ったオーラが身を纏った彼の姿は異様だった。 「これでいいな」 ジルハは構えた。左で剣を握りながら勢いよくヴァンに挑んでいった。 ジルハの剣はヴァンの胸をめがけてきたがヴァンはそれをさらりとかわした。 剣戟の鈍い音が部屋の中で響く中、2人ともまだ本気を出していない――序の口だ。 「俺だって一応紅月で生き延びてきたんだ。そんなん当たんねーよ」 ヴァンの剣に疎らに散っていた炎は次第に剣先へと集まっていく。 「今度はこっちの番だ!」 *…*…*…*…* 部屋から出たアーチェの向かった先は飛空艇の操縦部屋だった。 自動操縦とはいえ針路確認は怠らない。 ユースが創った飛空艇は本質的には他の飛空艇とは変わらないが 何故か異様なほど軽い。金属部分を差し引いてもほかのに比べれば軽いのだ。 空高く舞う飛空艇にとっては軽すぎて風に進路をもっていかれることがある。 それを定期的に見るのがアーチェの役目であった。 針路が正確であることを確認しようとするとアーチェは部屋に誰かが入ってきたのに気がついた。 「……ユース様」 振り返った瞬間目に映える銀髪――ユースだ。 一週間経ったとはいえ、能力による疲労は激しかったはずだ。 まだ身体が回復していないはずなのだが―― 「どうかされましたか、ユース様?」 「いいえ……なんでもありませんよ」 俯いていれば余計にアーチェに心配をかけてしまう。 それをユースは解っていたのか、必死に顔を上げて答える。 「まだ、身体の方が回復されてないのでは……」 「大丈夫ですよ」 ユースはそう言い微笑んだ。 思ったとおりの言葉にそういうしかなかった。 「なら良いですけど……」 「そういえば……アーチェ、あの2人は?」 「あぁ、またいつものやってますよ」 飽きれたものぐさだった。 一週間、短い期間の中で彼らが喧嘩をした回数は計り知れない。 「そうですか、でもいい機会かもしれませんね。 ジルハにとってもこれで少しは成長してくださればよいですが……」 部屋の真正面にある大きな窓、そこからは下に広がる世界が小さく見える。 そっと手を硝子にあてながらユースは真っ直ぐ前を見た。 「ユース様、次の欠片の場は…」 「わかりません。でも封印石の欠片がある所には必ず禍が起こります。ヴァンさんの持っていた袋にも欠片が入ってました。 彼に起きた禍は1週間前の事とみて……いいでしょうね」 自分達――ーいや、ユース自身に関わってしまったことが彼への禍だった。 人界において封印石の存在を知っているものは少ない。 それを教えてしまったユースは少なくとも罪悪感を感じていた。 「ジルハの件もありますし。とにかく世界各国で起こっている事件、そして封印石の共鳴を待つしかありません」 禍が起こらない限り封印石を探し出すのは至難する。 どうしても後者にまわってしまうのがもどかしかった。 ユースは操縦部屋の大きな窓の外、空の彼方を見つめていた。 「そうですね……能力――"情報"を使ってできる限りのことを調べてみます。だからユース様、休んでいて下さい」 「……ありがとうございます。けれどアーチェ、私にもやることがあるんですよ。ところで――」 「はい?」 「さっきから聞こえてくる音とこのゆれは何なんでしょう? また盗賊でしょうか?」 盗賊が侵入しているわけはなかった。侵入された時点でアーチェが感づくはずだ。 だがユースが言ったとおり飛空艇が揺れ、何かが壊れる音がしていた。 *…*…*…*…* 鈍い音が部屋中に響く。 ヴァンとジルハが壁にそれぞれたたきつけられた。 小さな呻き声を上げたが余裕そうな笑みをヴァンは見せる。 「フン、そんなもんかよ」 背中がズキズキと痛んでいる。 今まで何度も喧嘩はしたがここまでやったことはない。 だが両方とも本気を出しきってはいなかった。 「そっちこそやばいんじゃないのか」 ジルハが強気に反論する。 口元を切ったのか右腕で軽く拭っていた。 「とにかくお前は勝てねえんだよ、 何もできないくせに威張ってんな! このチビ!」 「なんだと……」 軽い挑発のつもりだったがジルハの雰囲気が一転した。 どうやら彼の地雷を踏んでしまったようだ。 「お前……本気でやる……」 そういうと音と共にフォールの変化がとけフォールは床にたたきつけられた。 そして先ほどまで橙色だったジルハの目は段々と真紅に染まっていく。 禍々しい雰囲気に包まれ目の前の少年の金の髪は異様な光を放っている・ そして紅く光った目でヴァンを睨みつけていた。 「何の冗だ――」 ヴァンが言いかけた瞬間視界からジルハは消えていた。 辺りを見回そうとしたが遅い。すでに背後へとまわり剣を胴へめがけている。 ヴァンは咄嗟に自身の剣で防いだがジルハの力は先ほどよりも数倍あり、 勢いよく吹き飛ばされてしまった。 追い討ちをかけるかのように、一発、二発と攻撃は続く。 そして再度壁に叩きつけられた。衝撃に身体が耐えられず息をするのが苦しい。 剣は床に落ち手元から外れた。ヴァンはは起き上がることすらもうできない。 ジルハの目は自我を失ったかのように冷たい。 心底戦いを楽しんだ目、見つめてくる視線に自分は固まってしまったかのようだ。 動きたくても体が動かない。声を出そうとしてるのに声はでない。 深紅の目が鋭く光った、ジルハは剣を向けゆっくりと近づいてくる。 剣先がヴァンの方を向いても声を上げることができなかった。 冷やかな瞳は何の感情ももっていない。哀れみもなく、憎しみもない、唯の人形のように― そして剣は大きく振り上げられた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― |