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第2章 13話 紅の月〜本部〜 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― ヴァンは飛空艇の甲板に寝そべっていた。 空高く舞い上がった飛空艇の上は彼にとって寝るのには最適だった。 彼は今までのことを思い出していた。ユース達と旅をはじめ2ヶ月が経過していた。 水中庭園で負った傷もふさがっていた。 だが能力の使いすぎか、ユースの体調が悪く水中庭園を出発して1週間以上経過していたが 次の目的地である"グリエット大陸"にはまだほど遠いものだった。 そして裏切る――それがまだできていない。 それをするべきなのかすらわからない。だが自然と今の場所が居心地が良くなっている。 ――あんただって成り行きのようなものだし アーチェの言葉が脳裏に浮かぶ。確かに成り行き任せでここまできてしまった。 でもそうはいかない。封印石のこと、確かに恐ろしく感じるが自分には関係ないのだ。 ヴァンは大きくあくびをした。急に眠気が彼を襲ったのだ。久しぶりに深く考え込んだからだろうか。 日も真上に近く目を細めるほど眩しいが、ゆっくり流れる雲が光を遮るぐらいがちょうどいい。 彼は目を閉じ、夢の世界へと誘われようとしていた。 だがそのとたん軽快なアラーム音が鳴り響いた。 彼は寝ぼけながらもジャケットのなかにはいっていた通信機を取り出した。 紅月のマークがはいった小さなカード型のものだった。 1つのボタンを押し、アラームを止めた。そしてそこから光が漏れ出し画面が空中に現れた。 眠い目をこすりながらも彼は目を細くし画面を見た。 その瞬間かれは眠気が一気に覚め、驚きの声をあげるのであった。 *…*…*…*…* ヴァンは一気に階段を下り、甲板からメインルームである談話室へと向かった。 そこには彼以外のみなが昼食をとっていた。 テーブルの上にはバスケットにたくさんパンや主菜の魚と野菜の炒め物があった。 そして湯気のたったスープのいい匂いがしてきた。 「あれ、ユース平気なのか?」 ヴァンは一番端の席に座っているユースの前に座った。 正確にはそこしか空いていなかったといえる。 「はい、大丈夫です」 彼女はそうはいっても顔色も悪く、食が進んでいないのがわかった。 だがヴァンはあえて何もいわなかった。 アーチェが彼に1枚皿を渡し、それを受け取るなりバスケットからパンを手にしほうばった。 「あとどれくらいで着くんだ?」 彼はそそくさと1個食べ終わるとアーチェに言った。 彼女は数秒黙り込むと目を閉じた。すると彼女の周りから光が漏れ出した。 自身の能力である"情報"により現在の位置を正確に判断した。 「……最低でもあと1週間はかかるわね」 すうっと目を開け彼女はそういった。 アーチェの能力を使えば大体のことはわかる。ヴァンは内心彼女だけにはさからうまいと思っていた。 ――いや、この飛空艇ではあまり逆らわないほうが良いだろう。一人を除いて。 「そっか……あのさ、大陸に着いたらいってほしい国があるんだ」 「どこですか?」 「"ルーガス"、多分ここから一番近いと思う。小さな国なんだけど、一応俺の故郷」 「そこになんのようだよ……」 ジルハはそういうなり、自分の肩に乗っているフォールにちぎったパンを与えた。 フォールはそれを受け取ると4枚の羽をばたつかせながら空中にういた。 そしてレウィーナの肩に乗り換えた。 「実はさ、紅月の本部がルーガスにあるんだ。俺盗人じゃん? この通信機にさっき連絡が入って本部に呼ばれたんだ。ルーガス自体が紅月だと思っていい」 ヴァンが通信機を取り出すとレウィーはそれを見入った。 黒いカード型のそれにはたしかに紅月のマークが入っていた。 「ふーん、ヴァンって盗人だったんだね。でも……なんかすぐにでも失敗しそう。とにかくなんで呼ばれたの?」 彼女は1つボタンを押した。すると空中に画面が現れた。 そこにはむずかしい文面でいろいろなことが書かれてあった。 「わかんねーけど……ちなみに俺は失敗はしねーよ」 レウィーのいった言葉に訂正を加えがらも 彼は自分の皿に魚と野菜の炒め物を盛り付けた。 だがキレイに魚だけは抜き取っていった。魚は嫌いらしい。 「……ある。ここに忍び込んだときとか。どっかの馬鹿はすぐにつかまらなかったか」 ジルハは彼の言葉を聞くなりそういった。 その言葉に反応し――図星をつかれたヴァンは立ち上がった。 逆らうべきの相手に面と向かった。 「なんだと、この金髪チビ!」 ヴァンはテーブルを手でたたいた。皿がゆれスープがこぼれそうになった。 一同は唖然としていたがジルハだけは違った。 「俺はまだ成長期だっ!」 ジルハは反論するとヴァンのようにテーブルを強くたたき立ち上がった。 「……そこまでにして、台無しになるじゃない。話をもどそうか、ルーガスといえば治安が悪くて有名。あたしたちは行ってなにか得あるの?」 いつものようにアーチェが仲裁に入る。 2人ともおとなしくいすに座ったがまだにらみ合っていた。互いの言葉に納得していなかったからだ。 そしてそのままあきれつつも彼女はヴァンに質問した。 「そうだな……紅月の賊が盗品をそこで売買するんだ。最初、俺が盗んできた物の中にも欠片が混じってただろう? だからありそうな気もする。あと情報専門のやつも紅月にはいる。行ってみて損はないと思う」 そういうと彼はまたバスケットからパンを手に取った。 それをフォールがじっと見ていたのでヴァンは半分にちぎりフォールに渡した。 フォールはそれをうれしそうに受け取りゆっくりと食べ始めた。 「そうですね……アーチェの能力ならそこで情報を集められるでしょうし……行ってみましょうか?」 しばらくの間黙っていたユースだったが彼の言葉を聞くと納得したようだった。 水中庭園を出発してから封印石の反応がなく彼女自身も困っていた。 「ユース様がそう仰るのなら……」 アーチェは彼女の言葉を聞くと反論をやめた。 自分がユースの役にたてるのならそれでよかった。 だがその雰囲気の中ジルハだけが不満そうな感じだった。ヴァンの思い道りになって気にくわないようだ。 椅子を傾け、上手にバランスをとり外方を向いた。 「一国の王子様がそんな行儀とってていいのかなーまっ、ガキだし仕方がねぇなっ!」 ヴァンは一番早くそれに気づき先ほどと同じように憎まれ口でジルハに言う。 馬鹿にされた本人は異様な目つきで睨みつける。プライドが許せなかった。椅子を倒し彼は立ち上がった。 「お前……やるかっ!」 2人がまたケンカをはじめようとしていた。ヴァンも立ち上がり彼らはにらみ合っていた。 だが仲裁役のアーチェはそのなかに割り込まず地図を広げユースと2人でルーガスの位置を確認していた。 「やっぱしおもしろいわね」「ピュゥ」 その様子をみながらレウィーナとフォールはパンをほうばっていた。 だがヴァンが剣を手にし火の粉が舞ったのにレウィーは気づき、 人差し指で空気中の水を操り剣に水をかぶせた。 せっかくの昼食を台無しにしたくなかったからの行為だった。 *…*…*…*…* "グリエット大陸"のルーガスに到着したのはそれから10日後だった。 正直1週間以上ヴァンはかかってほしいと思っていたのでこれは喜ばしいことだった。 自分の生まれ故郷であり両親を亡くした場所でもあったからだ。 複雑な思いで彼はルーガスの土地を見た。 大陸と海の境界線である急激な崖は険しくたっていた。 ヴァンに誘導されながらもその崖の下部に一行は進んだ。 そこには鋼でできた飛空艇や船の格納庫に続く鉄鋼の道があり、 飛空艇は静かにゆっくりと中に入っていた。 格納庫の中にはたくさんの盗賊たちの船があった。 それぞれ自分たちのマークを掲げている。 定位置に飛空艇をとめるとヴァンはすぐに降りていった。 「よっと」 あたりを見回すと冷たい空気にさらされた。 周りにいた紅月の同盟員たちの目が気になったからだ。ユースが創ったその飛空艇は赤い船体で格納庫の中でとても目立っていた。 初めて入ってきたそれに同盟員たちはざわめいている。 それを見るなりはやく本部で用事を済ませ、一刻も早くこの国から出たいと思うのであった。 ユース達もおそるおそる飛空艇から降りてきた。 ただでさえ海賊や空賊の本部なのだから変なことに巻き込まれるかと心配だった。 「ヴァ〜ン〜君!!」 突如ヴァンを呼ぶ声がした。その声にヴァン聞き覚えがあり悪寒が走った。 声のした方向からはユースたちも見覚えがある少女が走ってきた。 薄紫色の短い髪に民族衣装と見られる珍しい服、 そして服の帯の模様とおそろいの大きな丸い髪飾り 彼女の深い青の瞳がそれをいっそうと際立てさせた。 2ヶ月前にユース達の飛空艇を襲撃してきた空賊団"アンビション"の頭であるアルスだった。 野心を意味するアンビションの女頭がそこにいたのだ。アルスはヴァンのもとに走ってくるなり腕にしがみついた。 「あ、アルス!? なんでお前がここにいんだよ!!」 悪寒はこのことかと思いヴァンはとてもいやな顔をした。 アルスといるといつも変なことに巻き込まれたりし彼は彼女に散々な目にあってきた。 だが彼女はヴァンを気に入っているらしく見かけるたびになにかしてくるのであった。 「何って……たまたま本部に戻ってきただけよ。 それにヴァン君いいの? こないだのことカシラにいちゃったんだかんね。わたしのいうこときいていたほうがいいよ?」 そういうと不気味な笑みを見せた。 それにまた悪寒が走った。 「あーわかったよ。けどいいかげんはなせ!!」 彼は強気にそういうとアルスの手を振り払った。 そしてジャケットの中から通信機と折りたたんだ用紙をユースに渡した。 「ユース、これ通信機とルーガスの地図だ。一応渡しておくな? あっちの方向に行けば地上に出られるし多分会場もあると思う。 誰かに何か言われたらこの通信機を見せれば平気だからさ。俺も用事済ませた後すぐ行くから」 「はい、ありがとうございます」 ユースが礼を尽くし微笑んだ。 そしてヴァンはアルスから逃げるかのように本部に続く鉄鋼の道を行った。 「あっ!! ヴァン君待ってよ! ……あなた、ユースって名前なの?」 すぐにヴァンを追いかけるかと思ったがアルスはユースに言葉を発した。 その声はさきほどの声とは思えないほど冷たい。 「えっ、はい。そうですけど……」 ユースはすぐに言葉を返した。 するとアルスは彼女の瞳から足のつま先までじっと見つめた。 「ふーん。銀髪に蒼い瞳……情報の通り、間違いないようね」 アルスはそういうと体をかがめユースの顔を下から見上げた。 「えっ……」 「前のことは悪かったわね、今はヴァン君のお友達ってところなのかな。 彼、群れるのは嫌いだもんね。そうだ、ユースさん? 呪って知ってる?」 先ほどの言葉といい、前にあったときとは違い彼女はユースのこと知っている。 そして呪という言葉を聞いたユースは彼女の前からを後ずさった。それを見たアーチェはユースとアルスの間に入った。 彼女は持っていた短剣をすばやく出し、アルスに向けた。 だがそれをつきつけられてもアルスの表情は微動だにしない。 「今ここで争う気はないんだよね」 その場に鉄鋼の音が響き渡った。 瞬間移動したかのようにアルスはアーチェの後ろに回り短剣を手から落としていたのだ。 アーチェはなにがおきたかよくわからず、振り向きアルスの顔を不思議そうに見た。 なぜ彼女が後ろにいるのだろうか、 先ほどまで刃先をむけていたはずなのにもかかわらず普通にアルスは立っている。 そしてアルスはユースのほうを向いた。ユースは同時に一歩ひいた。 「またあいましょう? "ロイ=ユース=エルエン"さん――」 アルスはユースの肩にそっと手を置き耳元で言葉を発した。 そしてそのままアーチェを通り過ぎヴァンの向かった方向に走っていた。 その足取りは普通だった。 「なんであの人私の真名を?」 不信に思う点がありすぎた。ユースはその場に座り込んだ。 その少女をアーチェは見守ることしかできずにいた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― |