第2章 15話 紅の月〜星の旋律〜
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 闘技場に入るとヴァンはあたりを見回した。 オークション会場にはユース達を見つけることができなかったのだ。 まさかと思いながらもその人だかりをさがして回った。 中には顔見知りの盗賊仲間もいたりしたがあえて声をかけなかった。 そしてふいに目に留まる銀髪が彼の瞳に映った。――ユースだ。 彼女は会場の隅に設置されているベンチに座っていた。 一人きりで周りにアーチェの姿が無かった。
「ユース!」
「ヴァンさん、用事は終りましたか?」
「あぁ、仕事の引き受けだけだったから早く終わった。オークション会場にいなかったから捜したけどな。でもなんでここにいんだ?」
「実は……封印石は盗品の中にあったのですが買うためのセンズが足りなかったんです。 これからの旅の経費も必要なので早くセンズを手に入れるため……ちょうど紅月の試合があるそうでして勝利すればセンズを得られますし」
 封印石を握り締め、決意の固さをあらわにした。
「盗品? だったら俺がカシラに頼んでもらってこようか? そのほうが手っ取り早いだろ」
  「そっ……そんなことできません! ……唯でさえ迷惑をかけているのにこれ以上は……」
「そうか? 俺は別にいいんだけどな。 とりあえず試合に出るのはいいとして、たしか3人で1組……誰が出るんだ?」
「アーチェとジルハと……ヴァンさんの3人です」
「……俺?」
 自分を指しヴァンは驚きを隠せないようだった。 随分前だったが彼は紅月の試合に出たことがあった。 だがそれは危険を伴うもので死傷者が出ない試合は無かったのだ。 それを味わいたくない気持ちが強かった。
「その……紅月の試合に出るので紅月に所属していないといけなかったので、ヴァンさんはでなくてはならないんです。 私は封印石のためなら手段は問いません。迷惑をかけてると自分で言ったばかりで矛盾しているのですが…… でも私は皆さんを信じていますから……もちろんヴァンさんもですよ? いざとなったら私が能力で結界を張ります。だから……お願いできますか?」
 彼女の使命を全うする生き方、そして仲間を信じていること 彼はその姿勢がわからなかった。出会ってまだ間もない自分をそこまで信用していいものか、と だがあえて言わない。ヴァン自身も信じたかったからだ。
 ――今旅してるあいつらと一緒にやることがあるんだ
 と先ほど頭に宣言した。ヴァンは当初利用してすぐに裏切るつもりだった。 信じられるのは己だけと紅月の中で生きていくにはそれしかなかったのだ。 だから不思議と自分が彼等を信じたい気持ちができたのを驚いている。
 ――成長したな、ヴァン
 頭に言われたのは心のことなのかと思いいながら言った。
「……まぁいいや。これも修行のひとつかな」
 そういうと彼は自分の腰に下げている剣を見つめた。 "火"の能力を取得はしていたが剣が無いと発動の兆しさえ見せないのだ。
「大会は明日の1日で決まるよな……そうだ、今日どうする?」
「飛空艇に行くわけにも行きませんしね」
 飛空艇は紅月の格納庫に止めてあった。 その場所に戻ればそれは出国とみなされるため戻ることはできない。 ユースの能力で創られているそれはいつもなら彼女自身が自分の異空間へと移していた。 その結果能力による消費も多少は少なかったが今は違う。 今このときでも彼女の力はどんどん消費していく。 この前のように体調が悪くなってしまうかもしれない。時間も争うのだ。
「なんなら俺の家いくか? 帰ってないから汚いかもしれないけどさ」
 彼はそう言うしかなかった。 自分の無力さに少しの怒りを感じた。

*…*…*…*…*

 太陽が茜色に輝き、光が遠く除いた空は薄紫色だった。 紅月の建物が並ぶ場を離れ、荒地を歩いた。 郊外にポツンとある広家、それがヴァンの家だった。 彼がドアを開けると中は不穏な空気で満ちていて大分家に帰ってきていないことがわかる。
家具の表面を触ると手に埃がついてしまう。
「……埃っぽい」
 ジルハは右手で口を押さえた。その場には埃が舞っている。 「我慢しろ……おかしいな、あいつに掃除を頼んどいたはずなんだけどな……」
 ヴァンは窓を開け空気を入れ替え、明かりをつけた。埃っぽいがそれなりに片付いてある。 荒らされた様子もなく、平然としていた。
「すごい家ね」
 アーチェは辺りを見回した。 家の広さには圧倒されるものがある。
「両親が残した場所だ。医者だったからここは診療所としても使われていたんだ。 ……昔に殺されちまったけどな。今は本拠地として使ってんだ。部屋はたくさんあるから好きに使っていい。と、その前に掃除しないとな」
「……フォール」
 ジルハが名を呼ぶとフォールはわかったように能力を発揮した 一面にまぶしい光とともに、フォールは風に変化し、その埃を外へと巻き上げた
「龍でも特殊能力以外を使えるんだ……」
 レウィーはその光景を見るのは初めてだった。 能力の不思議さは日に日に彼女の中で増していっている。 フォールは変化し終えると元の姿に戻りジルハの肩の上に乗った。
「……一応これで掃除終了?」
「そうですね」
ユースはそう笑って答えた。
*…*…*…*…*

 夜も遅く更けたころだった。 ヴァンは久しぶりの故郷のせいか眠ることができずにいた。 自分の家は苦い思い出に包まれているからだろうか、 彼はそんなことを思いながらも自室を後にした。
 満月が自分の真上にある。彼は外に出たのだ。 心を落ち着かせるためには家にはいないほうがよいだろうと思ったからだ 外は肌寒かった。彼は着ている紅いジャケットのファスナーを上へとあげた。 そんななか歌声がかすかに聞こえた。
 少し高い声で途切れつつもある声、その主はユースだった。 聞いたことのない言語だった。それは不思議としか捉えることができない 彼女はヴァンに気づいておらず、悲しげな旋律は続いていた。
「眠れないのか?」
 ヴァンは後ろから声をかけた。すると少女は歌うのをやめ振り向いた。
「ヴァンさん……聞いてたんですか?」
 こんな夜中に起きているのは自分だけだと思っていた彼女は、少しムスっとした顔つきで言った。
「盗み聞きして悪かったって……今のは?」
「エルエン一族に伝わる歌です。古代語らしいですけど…… 歌えてもそれを解読することはできませんから……」
 そう苦笑いをすると彼女はその場に座った。 ヴァンも隣に座り込む。 「そうか……お前体調平気か? まだ病み上がりだろ」
 先ほど考えたこともあり彼女の体調が気になったのだ。
「大丈夫ですよ」
 その台詞を何度も聞いた。 彼女の『大丈夫』は強がりにしか今は聞こえなかった。
「大丈夫、ねぇ……お前の口癖だな」
 そうヴァンが言うとユースは黙り込んでしまった。 どうやら図星をつかれたらしい。
「外は危ない、ルーガスには盗賊が百といるからな」
 沈黙をやぶり彼はそう言った。そして着ているジャケットをユースにかぶせた。 彼なりの心遣いなのだ。ユースはそれを察し、肩にかけた。
「そうですね。でもそれを承知の上で今日は見たいものがあるんです」
「なにをだ?」
 ユースは空を指した。暗闇のなか一筋の光が横切った。 それはだんだん多くなりあたり一面にと流れる。彼女の見たいもの、それは流星だった。
「流星群、今日はその日なんです」
「すげぇ……俺初めて見た……」
 ヴァンはその光景に圧倒された。 いままでの彼は空を見上げることはまずなかったのだ。 星降る丘で彼はそれをじっと見ていた。
「この流星群を迎えると同時に冬に向かっていくんです。季節を知らせてくれるんですよ」
 ユースはそう説明した。だが彼がそれを聞いていたかはわからない。 流星に感動している姿は子供とかわらない。
「ヴァンさんはここにずっと住んでたんですか?」
 流星が終わりを迎えたころだった。ユースは彼にそう尋ねた。 「紅月に入るまでな。荒地化した土地を見てきたよ。……なぁユース、俺さ5歳までの記憶がねーんだ」
 顔を腕に押し付けて彼はそう答えた。ユースは不安げな表情になった。 「両親が殺された光景すら覚えてないんだ。気づいたら今の紅月で一番えらいカシラに拾われててさ、 最初は自分が誰なのかさえもわからなかった。……忍び込んだあの時、お前さ俺に言ったよな?  記憶を消すって……あのときこれ以上記憶を失うのを俺は恐れていたんだ。盗人として今は生きていけるけど本当にそれは"俺"なのか……時々すごく不安になる……」  そう言うとユースは考え込んだ。彼の心の傷は思ったより深かかったからだ。 「…自分自身が一番わからないものですよ。私だって自分の存在がなんなのかまだわからないままです。 けれどヴァンさんはこの世に1人しかいないでしょう? 心の弱さに惑わされれば自分を更に見失ってしまう……それを決めるのは自分自身ですよ。 ……私も負けそうになりますけどね」
 ユースはそう苦笑いした。だがそれにヴァンは思い出すことがあった。
――お前はこの世でたった1人しかいねえんだぜ?
 以前自分がジルハにいったことだった。なぜ忘れていたのだろうか。 ヴァンは顔を上げ立ち上がった。内心を打ち明けたせいか彼はすこし心が楽になった気がした。
「……ありがとな。さてと、明日から予選が始まるんだし戻ろう。それにアーチェが知ったら怒られるぞ」
「そうですね」
 ユースは笑いながらもそう言うと立ち上がった。小さな星屑が夜空に舞い続けていた。
*…*…*…*…*

 レウィーはあたりを見回した。広い闘技場にはうごめく人で溢れかえってた。 腕に自身のある者が多いせいか、体格がよさそうな人達がたくさんいる。 中には異種族の者もいるのだ。一向はただその人の多さには圧倒されていた。 そして機械音がうごめいている。 会場の大きなモニターをはじめ、戦闘領域の周りにはおかしな機械が並べられている。
「あれ……何?」
「多分……自動転移装置じゃないでしょうか?」
「ルーガスはこのグリエット大陸の先端、海を使う商人が集まる港もあるんだ。 だからああいった最先端技術が運び込まれてくるのもまれじゃない。それを使って国の資金としているほかにも紅月に入っている者たちに試合をさせることによって成り立っているんだ」
 ヴァンは口をはさみそう言った。国を成り立たせるためにもかなりの資金を必要とする。 それを自分達をはじめとする盗賊などから集めさせる。彼はそう言葉を追加させた。 ユースたちはそれを黙って聞き国の状況を受け止めた。
「では私とレウィーは上の観客席から見ていますね。くれぐれも無理なさらないでください」
「あぁ」
 ユースとレウィーはその場から去った。 上の観客席にいてくれた方が心配しなくてすむ。
「……参加費が1チーム1000センズ。そして参加チームが100を超える……大変な話ね。 しかも配当金制、どうりで参加費が異様に高いわけね」
 アーチェは残り少ないセンズがなくなっていき異様に機嫌が悪かった。 ほとんどが目つきの悪い盗賊達、嫌気が指しているのだ。 そのせいか腰布で隠れている武器数がいつもより多いのはヴァンの思い違いだろうか。
「まっ、何にせよ勝たなければ意味がない……たしかこの試合は相手を倒すか場外に出すかの2通りある。 さっき配られたこの小型の機械でそれが判断されるからな」
 ヴァンはそう言うと配られた機械を見た。小型のバンド式の機械だ
「相手を場外に出せば負傷者も少なくる……できるだけ領域ギリギリのところで戦ったほうがいいんだ。まっ、リスクは増えるけど」
「どっかの馬鹿はやられないように気をつけるんだな」
「そう言ってるどっかのオチビさんも気をつけるんだな」
 ヴァンとジルハは睨み合いながらそういった。  2ヶ月前とほぼ変わっていない2人を見てアーチェはあきれていた。
「ちょっとっ!」
 だが彼女は中に割り込みヴァンの頭を叩くと服を引っ張った。 そしてジルハから少し離れた場所へと彼を連れて行った。
「なんだよアーチェ!」
 頭を抑えながら彼は不満の声を上げた。
「ヴァン……あんた覚えてる? ジルハの特異体質。魔族による血がさせてしまう闘争心で瞳の色が変わったこと」
 2ヶ月前、ジルハの橙色の瞳が血色へと変わった瞬間彼は動くことすらできなかった。 それは確かに彼に対する"恐怖心"としてヴァンの中にとどまっている。
「覚えてる」
 彼は自分の心に言い聞かせるように言った いつ、また彼があのような状態になってしまうかわからないからだ。
「もしかしたら今回もそうなってしまうかもしれない。そしたら会場の皆にジルハが半魔族であることが知れてしまう。 真紅の瞳は魔族の象徴、……わかるでしょう? だからもしそうなったときはあの子を場外に出すか気絶させてくれる?」
「……わかった」
 すこしためらいもあったがアーチェに約束した。 あの恐怖心には二度と落ち合いたくなかったが仕方が無い。
「話は終ったのか?」
 ジルハが2人と少し話した場所にたっている。
「あぁ、終った……」
「ヴァンくーん!!」
 言葉の途中でアルスがヴァンの腕に抱きついてきた。嫌がるヴァンの顔を見ると彼女は笑った。 「アルス、またお前か…何の用だよ」
「貴様っ――」
 ユースの件がありアーチェは警戒していた。腰布から何かを取り出そうと体勢を低くしている。
「おっと、フェアじゃないなぁ……わたしもこの大会にでるの。勝負はその時ね、アーチェさん?」
 くすくすとアルスが微笑した。それが逆鱗に触れたのかアーチェが武器を取り出そうとした だが時間が来たらしくその場に合図音が鳴り響いた。
「じゃぁ…またあとでね、ヴァン君」
 そう言うと彼女はその場から立ち去り人の群れへと消えていった。
「あいつ……何者? こないだもユース様の事やけに詳しかったし……」
「俺とは同じの紅月メンバーだけど……詳しいことはよく知らない。 でも事あるごとに突っかかってきてさぁ……俺も正直苦手」
 アーチェは深く考え込んでいたが今は試合のことに集中した。 センズを稼がなければ封印石を集めきることは難しい。 ユースのためなら彼女にとって仕方が無いのだ。
 会場全体に高い音が鳴り響いた。すると甲高い声が何かを話し始めた。
「制限時間45分間、相手を倒すか領域外に出してください。3人1組のうち1人でも残れば配当金を受け取れます また一定の攻撃を受けたり領域外にでると自動的に外に出され敗北となります。 ただし、残ったチーム数が多ければ多いほど配当金は低くなります。 できるだけ多くのチームを倒し、生き残ってください。なお死傷者が出る可能性がありますが"紅月"は一切責任を負いません。ご注意ください。では、ゲームスタート!!」  ヴァンは剣を手に取ると勢いよく相手に飛び掛った。

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