第2章 17話 魔の告知〜不確かな理由〜
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 暗い闇の中を鈴の音が何十にも重なり扉は開いた。 "現実の鏡"を持つ者――リートは人界にはない居心地の良さを改めて感じた。 地界は確かに闇にまみれている。誰だって光を好むものだ。 だが魔族にそれは許されなかった。
 5000年前の呪が血に刻まれ太陽の光を浴びれば真紅の瞳は焼けるのだ。 そして死ぬことはできない――不老不死。それが魔族の呪だった。 人界では力を制御し瞳の色を変え行動したが不安は消えなかった。 だが御子様に比べればと思えばこれはまだましなほうだった。
 御子が地界から離れれば地界は無へと帰す呪だった。 月がでない新月の日のみ人界へと赴くことができるのだ。
 地界の魔族たちはずっと生き続けている。 魔力を無くせば魔族は命を落とすのにもかかわらず。魔力を無くしたものは生きる屍化している。 それは朽ちることなくただ一点を見つめ、何も考えることができなくなる。それが呪いの恐ろしいところだ。 地界の貧民街にはこのような姿の魔族が何千といるのだ。その前を通らなければ御子のいる神殿には行くことができない。
 リートは周りを見渡してみると自分より小さな子供が生きる屍化しているのに気がついた。 だが何をしてももう元に戻る術はないのだ。呪が解けない限りずっとこのままなのだ。 彼女は、自分がこのような姿になるかと思えば背筋がゾッとした。幸い自分はほかの魔族より優れた魔力の持ち主だった。 そのおかげでなんとか姿を保てている。

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 扉の先には長き廊下が続いていた。 御子がその場を離れずにいる場所である水牢の地――彼の義姉が眠っている場所だ。 そこへ行けるのは許された者のみでリートも数少ないその一人だ。
(義姉様を目覚めさせれば本当に呪は解けるのだろうか……)
 一人考えるのも虚しく彼女は先の大きな扉に手をかざした。扉は開き薄暗い場所へと導いた。 中心には御子がいる。数々の装飾品を身につけ髪をまとめ一つに縛った彼がいた。 自分より何千と年上の彼の姿は異常だった。 強大な魔力の持ち主とはいえ、時がたつうちに纏う魔力が薄くなり始めている。 それは御子も承知のことだった。このままでは御子も――
 だが御子はただガラス管の前で見ていることしかできなかった。 リートが入ってきたのに気づく気配もなく一心に見つめていた。
 彼の義姉は液体の中で漂っていた。金の髪は行くあてもなく浮力で上へといった。 気品あるその女性は死んだもののように眠り続けていた。 それを何度も何千とリートはその姿を見続けてきた。
「御子様……」
 リートは気を使い暫くその場で黙っていたが耐え切らなくなり御子を呼んだ。 御子は振り向きリートを見下げると笑みを浮かべた。
「リート……時間がかかったな」
 鋭い瞳がリートをついた。言葉を失くしそうになったがリートはゆっくり口を開いた。
「申し訳ございません。ですが、確かめるべきことは総てこの鏡に記録してきました。 エルエンの者も写しだされるかと」
 リートはそう言うと髪につけていた丸く大きな装飾品である鏡 ――現実の鏡を御子へ差し出した。
 御子は覗き込むと面はぼやけ、鏡はエルエンの生き残りであるユースを写し出した。
「……確かに銀髪に蒼の瞳……間違いはないな。それに呪も残っている。人界の封印石はあとどれくらいで集まる?」
「はい、あと半年もあれば総て集まると思えます。私とアルス、二人で探した欠片は総て彼女の元へ渡るようしかけておきました」
「そうか……人界の封印石は人界でしか発動はしない。地界はまだ安定している。だが地界の封印――黒の封印石は既に効力を失っている。 3つの封印は総て解けている。だが人界の封印石は割れ力を分散している。総てがそろってこそかの者は目覚めるのだから……」  鏡を伏せ、御子はもう一度義姉を見上げた。 仮死状態の彼女を目覚めさせるにはそれしか方法はないはずだ。 そしてガラスに薄暗く映った自分をみれば身体全体が、力が抜けているかのように ぐったりとしている。時間は一刻と迫ってきているのだ。
「何千と生きているせいか……気が萎えたものだ」
 手を当て自分の姿に絶望するかのように御子は言った。
「御子様…もう一つよろしいですか? エルエンの者が旅をしているなかで面白い人材を見つけました。半魔族でありながらも取り巻く魔力は御子さまと同じような力のものを……」
 リートはそう示し、御子は鏡をもう一度見た。そこには金髪の少年が写し出されている。 だがそれを見た御子は目を丸くした。 「……この者の名は?」
 いつもの冷静さを失わぬ口調は、その時だけなぜか驚きをかくせぬ様子だった。
「ジルハ=アロン、と……」
「アロン……面白い。これは思わぬ好機に恵まれたものだ」
「何がです?」
「……リート、次の新月の際に我は人界へ赴こう。この者を利用しない手はないからな……」
 御子はそう言うとリートを下がらせた。 彼女は深々と礼をしその場から立ち去った。扉が閉まる音が大きく鳴り響く。
「義姉様……見つけたよ。もう一つの方法を……」
 金の髪が光に照らされてなおまぶしく光った。 そして微動だが、義姉の手が動いた気がした。

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