第2章 18話 魔の告知〜遺跡の旅人〜
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 封印石が設置された羅針盤は光の筋を一点に保つわけではなく、 途方にあるものの反応までもキャッチしていた。 レウィーを近くの海岸で見送り再び旅を再開した一行だったが、 求めるものは人界に幅広くわたっているためそれを見た瞬間肩を落とした。 だが一番強い反応の場を求め、飛空艇は空を駆っていた。
 そんな中ジルハは前にもまして口数がすくなくなっていた。 ユースの言葉が気にかかっているのだ。
 ヴァンが進入した以前に彼は旅に加わったのだが、何も知らされていなかったのだ。 だがそれを気にしていても何も始まることはなかった。
 グリエット大陸は冬へと季節が移り変わっていったが、温暖な大陸だ。冬でも暑さはあまり変わらない。 だが封印石はそこへ禍を既にもたらしていた。
「フィーリス遺跡? ちょうど仕事もあるし行って来るよ」
 調子のいい声でヴァンはそう言うと紅月の通信機を取り出し、遺跡の情報をとりだした。 紅月本部で彼はトレジャーハンターの仕事を数件任されていた。その中にちょうどフィーリス遺跡も含まれているのだ。
「ありがとう……ユース様はまた体調崩されている。……あたしは見ていないといけない。ジルハにも行かせるから、頼んだわよ?」
 少々困り果てたかのようにアーチェはそう言った。ユースをおいてこの場を離れるのは彼女の使命において無理があることだった。遺跡に封印石の反応があっても離れることはできない。 「……なぁアーチェ、ユースは大丈夫なのか?」
 それはジルハがいないからこそ、彼はそれを聴くことにしたのだ。 ジルハがユースのことを気にしているのはアーチェも気づいているだろう。
「……わからない。能力をここ最近使っているといったら、結界だけだと思うんだけど……もともと身体が丈夫な方ではないから仕方がないのよ」
「そっか……なぁ、もうひとついいか? この間のユースの話、お前はいつから知っていたんだ?」
 ジルハが無口になっているのもそれが理由のはずだった。 アーチェに信頼を置ける彼女だからそうだったのだろうか、と彼は考えていたのだ。
「あたしだってユース様自身から聞いたわけではないのよ。昔に能力……情報を使ってユース様のことを少し詮索したの。 ユース様の心が拒んだせいか少ししかわからなかった。 その時、3つの封印石についてほんの少しだけ知ったの。正直、邪道な方法ね……」
「そっか……」
 アーチェの顔がくもった。気持ちが複雑だったのだ。 それほどユースは知られたくないことだったのだろうかと考えた。 それでも彼女の心理をつかめることもないのだ。重々しい空気の中、アーチェは口を開いた。
「あと、この間能力が剣なしでも使えてなかった?」
「あぁ、なんとかこの通り。っていってもまだこれくらいしかできないけど」
 ヴァンは手の平をかざすとに小さな炎の球体が光とともに現れた。 紅月の試合に出てから少しずつだが扱えるようになってきたのだ。当初のころの彼に比べれば大きな進歩だった。 「でも成長したわね。これなら結界も創れるだろうけど……」 「はっ? それはユースにしかできないんじゃないのか?」
「話してなかったけ? 能力にも2段階あって、1に光2に個々のものが表れる。うまくコントロールすれば光の時点で周囲に集めれば結界はできるのよ」
 能力の段階は彼にとって初耳だった。ただでさえ、コントロールするのに慣れ始めたきたというのに、 そのような高度なものがヴァン自身できるわけがなかった。
「難しいな……アーチェはできるのか?」
「あたしもやってみたけれどまだ無理ね。でもあんたはこの間それらしきことができたからね」
 彼女は紅月で彼が見せた炎の纏う姿は結界だったのではないかと考えていたのだ。 自分にはその兆しすら見えないというのに、とアーチェはそれが悔しかったのだ。

*…*…*…*…*

 雪が降り続くフィーリス遺跡はまさに異様だった。 近くに飛空艇を停泊しているとはいえ、正直行くのが嫌になるほどだ。 季節は冬だとしてもこの吹雪は温暖な大陸にそぐわない。ここ数日から遺跡を中心に一部分だけ降っているのだ。 ヴァンの能力をうまく利用し、雪を溶かし道を作って行ったが、すぐに雪で掻き消されてしまう。 崩壊しかけた遺跡へとたどり着くのはよいではなかった。
 やっとの思いで内部へと進むことができヴァンはほっとしていた。 能力により明かりを灯したランプは遺跡の内部をあらわにしていく。 天井も崩れかけ小さな石粒が落ちてきていた。
 ユースから借りた羅針盤を手に、ヴァンとジルハは進んでいった。 いつもと違うといったら口喧嘩がまだないことだった。 元からあまり仲は良くなかったが、ジルハは無言のまま進んでいった。
「……ジルハ、お前のその態度そろそろやめたほうがいいと思うぞ」
 響くのは足音だけでヴァンは虚しくなったのだ。少々イラつきながらもそう言葉を放った。
「……何年も旅に同行していたのに知らなかったんだ。気分が悪いのも、……わかるだろ? ユースさんは誰も信用していないんだ」
「は……?」
 いきなり突飛ったことを言われたせいか思わずヴァンは聞き返してしまった。
「俺は……魔族の血が入ってるせいなのかもしれないけど…そういった事に敏感だ。ユースさんは誰も信用していない。時々そう感じることがある。目が違うんだ……。アーチェだって信用されてないと思う」
 魔族の血が入っているせいだと彼は称したが、ヴァンも心のうちで引っかかっていたことだった。 だが疑いから何が始まるわけでもないのは知っていた。ユースが話してくれただけでも進歩だとヴァンは思うのだ。 「考えすぎだろ。妙な詮索はやめたほうがいいと思うぜ? 考え出したらキリがない。今はできることをしたほうがいい」
 そういわなければ自分もまた疑い続け今のジルハのようになってしまうからだろう。 自分自身に向けた言葉なのだ。それを聞きジルハ無言で進んでいった。 返す言葉に困っているのだろうか、また静かな空気が流れ始めてしまった。
「……でも、俺はユースの気持ちわからないでもないんだ。幼いころに両親は殺され……孤児になった者の気持ちがな。 何も信じられなくてひたすら傷つかないように心を閉ざす。最初は誰も信用できるわけがないんだ。 けどそこから抜け出すのは自分の意思じゃないといけない。だからこれはユース自身の問題だろう」  自分の幼いころを思い出せば、ユースもジルハも同じだったのだ。 自身が抜け出せたのは紅月の頭のおかげだった。 両親が殺されたのは紅月の者だが、自分を助けてもらったのも同じなのだ。 心から憎め切れない、そんな感情がヴァンの中にひっそりと残っている。
「……そうなのかな」
 ヴァンの中に何かを感じたのか、ジルハはそう答えた。
進んでいく際にも羅針盤の一筋の光が燈っていたが奥に行く連れだんだんと強くなってきた。 どうやら欠片に近いようだ。2人は歩き進めるとある空間にたどりついた。その壁にだけ古代文字が掘り込まれた部屋だ。 所々が欠けているせいか、今此処で解読するのは難解だとヴァンは考え、 彼は一文字一文字書き留めていった。
 だがジルハは足音がするのに気がついた。ゆっくりだがこちらへと近づいてくるのだ。 ヴァンとジルハに緊張が奔った。さすがの2人も警戒し剣を抜き取り壁へと身を寄せた。 そして足音の人物が部屋へと入った瞬間だった。
「誰だ!」
 先に飛び出したのはジルハだった。剣先を相手の首先に向け反応を伺った。
「カナタ……?」
 だがヴァンは向けた相手にそういった。意外といえどびっくりした表情で相手を見ている。 相手も剣先を向けられて両手を軽くあげている、動じていない様子だ。 どうやら2人は顔見知りのようだったのでジルハは剣をおろした。
「おー、ヴァン久しぶりー。お前連絡よこさなかったなー?」
 漆黒の短髪をまとめており、尖った耳は異様だった。 瞳は人とは違う何かを感じる。着ている服装は民族衣装のようだ。 背はヴァンより少し高かったせいかジルハはむっとした態度だった。
「……誰だよ」
「えっと、こいつは――」
 ヴァンが答えようとしたとき、カナタと呼ばれた人物の声によってさえぎられた。
「俺はーカナタっていうんだ。紅月所属・トレジャーハンター兼医者やってる……そういやお前の名前は?」
「……ジルハ」
 疑わしく彼はそう答えた。人見知りをするジルハにとってそう簡単に信じられるものではないのだ。
「俺とカナタは一応コンビ組んでるんだ。そんな警戒しなくても平気だって。……っーかお前なんでここにいるんだ?」
「あぁー知らないか。この地下は獣人族の住処なんだよ。里帰りってやつ?」
 そういわれればジルハは納得した。とがった耳は人間とはまた違ったものだし瞳も違う。 アクセントや伸ばし方が違う言葉遣いも獣人族特有のものなのだろうか。レウィーと同じ彼は亜人種なのだ。 だがそうも言っているうちに封印石はカナタを指した。蒼白い光は彼の胸元の何かに反応したようだった。
「なんだよ……いったい……」
「……カナタ、お前首に吊るしてる物は?」
「あぁ、これか? なんかもらったんだ」
 そういうと彼は首から提げている皮の紐を見せた。先端には蒼い欠片――封印石が輝いていた。
「誰にもらったんだよ……まぁいいや、それくれないか?」
「俺だって気に入ってんのにー?」
「頼む、必要なんだ!」
 ヴァンは必死だった。これ以上カナタに封印石の被害が起きたら――
「はいはい、わかったよー。やるけどさ…そうだなーそのかわりお前仕事しといて。 俺はどっちかっていったら発掘作業のが向いてんるし。お前がこの遺跡のレポートだしいけよー」
 カナタは渋々と言いながらもペンダントごとヴァンに渡した。
「わかった……ってお前どこに行くんだ?」
 気がつけば彼は元から来た道を歩き始めていた。足が速いのも獣人族の特徴だ。
「気ぃ抜けたから帰るんだよー。どこの誰かさんがきたと思ったから上へあがってみただけだし。 ……まぁ俺はそのうちソールライトへ行くからさー、なんかあったらそこへ来てもいいぞ? 飯くらいはやるよ」
「……これ誰にもらったんだ?」
「あぁ、紅月の仲間にもらったんだよ。――かわいいアルスちゃんにね」
 後ろざまに手をふりながら彼はそういうと暗闇の中へ消えていった。
「アルスに……?」

*…*…*…*…*

 ヴァンは飛空艇の一室にしばらく篭っていた。紅月のレポートを完成させるためでもあるが、古代文解読をしていたのだ。だが思ったようにできず苦悩していた。
「なんなんだよ、この文……『三界に関与する力が集まりしとき世界は――』〜っくそ! 欠けてたからなー……」
 フィーリス遺跡の壁文字が所々欠けており彼は解読に手間がかかっていたのだ。 まだ古代語については彼もすこししかわからない分、時間もかかる。ふいに、扉からノックが聞こえるとそこへユースが入ってきた。
「ヴァンさん、進んでいますか?」
 色白の肌は確かに前からだったがそれ以上にやつれているといってもよかった。
「お前……自分の体調本当にわかってるのか?」
「……これでも充分なほど休んだんです。けれどこれ以上良くはなりません。 仕方がないことです。でも今は大分楽になったんですよ? 事の招きは私にあるのだから私が動かねば話になりません」
 ヴァンは小さなため息をついたが、ユースはそれに気がつかなかった。
「…とにかく無理はするなよ? でないと俺がアーチェに怒られるからな」
 そういうと彼女は笑いながら返事をしてヴァンの前に座った。
「この文章さ、フィーリス遺跡のなんだけど、『三界に関与する力』って封印石じゃねぇか? その後が欠けてたから良くわかんねぇけど」 「……確かにそう考えられますね。そうですね……あまり気乗りはしませんが、エルエン族の集落があった場所へ行きませんか?  私は……一族を失ってから訪れてはいないので何があるかはわかりませんが……そこには封印石の情報が残っているかもしれません」
「……お前はそれを見て平気なのか?」
 自分の故郷を見るのがどんなにつらいことかヴァンは解っていた。 だが彼女はそんなつらそうなそぶりは見せなかった。
「大丈夫ですよ」
 その言葉は強がりにしか聞こえなかったがヴァンはそれに反することもできなかった。
――大丈夫
それが彼女の口癖でもあるのだから

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