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第2章 21話 魔の告知〜決意〜 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 地界―― 暗く小さな部屋で少年は深い眠りについていた。御子の力が働いているせいだろうか、それと同時に 身体の周りには鈍く光るかのように薄い結界のようなものがはっている。金色に輝くそれは彼を護るかのように取り巻いていた。 「あの子……御子様はどうするんだろう」 アルスはジルハをじっとみていた。金色の帯びた力――それは強い魔力だった。 「さぁ、ね。ずっと眠ったままなのは地界に入ったせい。魔力が高まっているせいだろう。 半魔族よりも格下のはずなのに変だな……まぁいいだろう、直に目も覚ますはずだ」 リートは少年に対して何かと不安だった。御子自信が創りあげた部屋は無なのだが少年自身の力であろうか、金色の光はさらに輝きを増している。 地界に連れてきて結構なときは経っていた。だが少年が目覚める気配は全くない。まるで御子の義姉のようだ。 「あの子が"鍵"なら……エルエンは何なの?」 「御子様に訊きたくても訊けない……それが魔族の呪。過去のことを話せるのはほんの一部。 だから御子様は人界で彼らに本当のことをいえなかった。――エルエンは"扉"だろうか……」 地上へ赴く前に御子に言われた意味深な話をアルスは思い出した。 ――"鍵"を得る。 彼はそう称していたのだ。その鍵が魔族になにをもたらすかは検討がつかない。 だが不利になることはないのだろう。今の地界の現状よりも悪いものなど無いのだから。 「手遅れにならなければいいな……」 自分より幼きものが屍となりうることを知っているだけに、今は願いを託すしかない。 *…*…*…*…* ――閉じこもればいいだろう? そっと自分の中に響く声がした。少し高めの女性の声、それを知っている気がするのは何故だろう。 ずっと眠っていれば総ては終わるだろうか、この流れに溶け込めたらどんなに楽だろう。瞼をゆっくり閉じていくのは簡単だった。 「嘘をつくのは……」 その声に反するかのように自分の中で葛藤を繰り返す。けれど自分自身が信じきれないのも確かだった。 ――強がるのか? 本当は弱くて惨めな者なのに。 声は否応無く自分に問いかけてくる。もし嫌われてしまうのなら記憶を消すことだって自分にはできる。 それは逃げてるだけかもしれないけれど最良の手段だ。 「私は……私はただ――」 自由に生きたい、唯それだけだった。 *…*…*…*…* ユースはゆっくり瞼を開いた。どれくらい眠っていたのだろうか、考えが中々定まらずにいた。 先ほどまで見ていた夢は幻術だったのだろうか、それとも―― 「ユース様……」 不意にかけられた言葉の先にいたのはアーチェだった。 「ア……チェ……私は――」 声がうまく出せなかった。身体を起き上がらせようとしたが力が抜けたかのように入らない。 そんな彼女をアーチェは抱きしめた。 「1週間も眠られていたので心配しました……」 涙ぐんだ声を聞いた瞬間自分が生きているということをやっと実感した気がした。 「ごめんなさい……」 そうしたままユースはそっとアーチェに声をかけた。 「ユース起きたのか?」 物音につられてか、扉からヴァンが顔を出した。 ユースが起きたせいか、やっと彼自信も落ち着いたといって過言は無い。 アーチェがやっと手を離すとユースは2人に向け微笑みかけた。 「気分、悪くないか?」 どう声をかけていいかわからず、ヴァンはありきたりの言葉しかかけられなかった。 「はい……もう平気です」 「そっか……」 ほっとしたかのように、ヴァンは胸を撫で下ろした。安堵感か、自信の顔にも笑顔が浮かんだ。 「おーおー、ヴァンも口説くようになったねー」 徐に、白衣姿の男がそっとヴァンの顔を覗き込んだ。漆黒の短髪、尖った耳の人物――カナタだ。 「かっ…カナタ! てめぇ何言いやがるっ!」 ヴァンの顔が少し赤くなったせいか、カナタの好奇心が増した。だが剣を取り出そうとしたのでからかうのをやめユースに話しかけた。 「ユースちゃん? 初めましてー。あっ、俺カナタね。カナタ=J=ピアス。ちなみに半獣人の紅月配下の医者ですーよろしくー」 真面目そうな顔とは裏腹に異様なほど合っていない性格だ。 「は……はい」 ユースはいきなりの事だったせいかきょとんとしていた。いつの間にか両手は握られていた。獣人族の習慣とは――いえなかった。 両手を握ったままカナタは放そうとしなかった。 「……手を放しなさい! 女たらしっ!」 「あれっ〜アーチェやきも――」 言いかけたとたん、アーチェの平手打ちがカナタの顔面にとんだ。 さすがにそれをかわすことはできず直に受けたカナタはその場に倒れこんだ。 「ったく……女と見たらすぐ手を出すんだから……」 ヴァンが呆れた顔をしつつ「いい気味」とわらうとカナタもむっとした。 「ここはソールライトです。この馬鹿医者に……一応助けていただきました。……仕方が無かった状況とはいえカナタには封印石のことを教えました。それは承知しておいてください」 「馬鹿医者はないだろー」 すかさずカナタの言葉が入ったがアーチェ自身無視を続けた。 「……わかりました。あの……ジル、ジルハはどうなりましたか?」 気になっていたこと、それはジルハのことだった。 間違っていなければ魔族等が地界へと連れて行ったのを覚えていた。 「……あの後周辺を調べたけどもう……いなかった」 ヴァンは少し顔を歪めた。あの樹海から飛空艇に戻る際にもかなり手間をかかったが、それと同時にジルハも探していたのだ。 だがやはり樹海には人の気配すらなく影すら見えなかった。 「そうですか……多分危害を加えられてはいないと思います。彼等はジルハを必要としていましたから……」 ユースは言い聞かせるように言った。ジルハを殺す気なのならその場でやってしまえば話ははやい。 魔族はジルハの何かを求めていたと、ユースは補足した。 「そのこと……なんだけどさっ……その、お前の――」 「"呪"ですか?」 ヴァンの問いにユースはあまりにもはっきりと答えたからか、彼は少し驚きを隠せなかった。 「おーっ、話がはやいじゃん。俺もトレジャーハンターなんでねー。呪術とか古代のこととかは結構気になるんだよねー」 カナタがそういうとアーチェは彼に冷たい眼差しを送った。それを見て彼は口を噤んだ。 「この呪はエルエンの生き残りという唯一の証でもあります。魔族が…エルエンの集落に現れたときにかけられました。 私の能力"創造"は総てを操り、総てを創り出す、その力を半減するため……かこの呪をかけました」 今まで本来よりも半分以下で能力を使ったとしたら、本当の力はどれほど強いものなのか。そう考えたせいか、ヴァンは恐ろしく感じた。 「まだ……あまり言いたくはありません。……それでは駄目でしょうか?」 ユースの真剣そうな顔にアーチェは苦笑いした。そういうのならばまだ秘密はあるのだろうと―― 「今は……それだけ教えてくれただけでもうれしい。けれど、1つだけ約束してください。無理はしない、と」 「はい」 ユースのその言葉はヴァンにとって信じきれるものではなかった。いままで何度と無理をしていたかはわからない。でも何か心配になった。 「あと、フォールのことだけど……」 咄嗟にヴァンは違う話題を出した。 「どうなりましたか……?」 「俺が診たけれどあれは手の施しようが無い」 カナタはそういうとユースを別室へといい、連れて行った。 その部屋の中央で横たわっているフォールの姿を見るのは彼女自身躊躇った。 額の石はまるで封印石の欠片のように割れ石と化していた。 静かに眠るその姿はまるで死んでいるかのようだ。 「生きてはいるけど……額の石、それは龍族の核だ。その核が欠けたからかー……一向に目を覚まさないままだ」 「そんな……なにか方法は無いんですか?」 「俺もさすがに龍族を診るのは初めてで……どうすればいいか正直わからない。 でも龍族の住む場へこいつを連れて行けばいい。唯でさえ龍族は絶滅寸前。自分の種族を護りたいという気持ちはあるだろう」 カナタのその言葉にユースは戸惑った。 「道は……道はわかるのですか?」 「これでも異種族専門の医師なんでねー。あっ、もち人もだけど。 そういった情報は自然と集まっている。道案内なら俺がしてやるよー」 「だからって手を握るな!」 そう話している最中にカナタがユースの両手をまた握ったのはいうまでもなかった。 アーチェはどうしてもカナタが気に入らずユースとの間に割って入った。 「はいはい。とにかくユースちゃん、まだ目覚めたばかりだろ? 準備は任せて休んでいろな」 「有り難うございます……」 ユースはそういうとアーチェに連れられて部屋を後にした。 「……っと、そうだヴァン、買い物付き合ってくれるかー」 「なに買うんだよ?」 「なーにって、晩飯だよ。お前の好きなシチュー作るんだって」 シチューといった瞬間ヴァンの身体が咄嗟に反応した。彼の大好物はシチューだったからだ。 ユースはベッド近くの窓から空を見ていた。もうすぐ日が落ちるのだろうか、遠くの空が黄金色に輝いていた。 「アーチェ、お願いがあります」 「何ですか? そんな改まって……」 「もし……私が――」 彼女はそっと自信の"願い"を言った。 *…*…*…*…* 「異種族の街か……前来たときとは変わりまくりじゃんか」 以前ヴァンがソールライトに訪れたのは随分昔のことだった。 歩く人たちは異種族も多数混じっていた。 「つれねーこというなって。異種族でも人でも俺は女の子がいればいいのよー。おっ、あの子かわいい〜」 カナタのマイペースさは相変わらずだった。女たらしなのは昔と変わっておらずヴァンもあきれるしかない。 「……カナタ。かわってないのな……」 「うれしいだろー。気楽にマイペース。それが俺のモットーだし。それにしてもお前は性格変りまくりだねー」 「おっ、俺だって成長するんだよ」 少し照れれた様子でヴァンが呟いた。 「前はあんなに荒れてたのにー、何があったんだか。まっ、男は興味ないけどよー」 カナタは昔のヴァンを知っていた。数年前までの彼と比べれば随分丸くなったほうらしい。 「あのさ……俺、本当は裏切るつもりだったんだ。盗みに失敗して捕まって……成り行きで同行することになって……」 「んでー、今に至ると。……確かに昔のお前ならさっさと裏切ってただろうな。……それをしないのは何でだ?」 「よく、解らないんだ……自分でも。なんでこうなったのか……」 複雑そうな顔をしたヴァンの背中を軽く叩いた。 「……ヴァン、それは自分で考えろな。俺から言えることは何も無いさ。自分の気持ちなんだからなー」 「そういえばさ、何でカナタは医者になったんだ?」 少し間が空き彼はそっと答えた。 「俺、これでも半獣人だからさ―」 半獣人――それは獣人族と人の間に生まれた存在で獣人族自体、人工的に作られた存在だった。 「獣人族ってさ、獣と混ざった者だからなー、結構短命だし獣の病気もかかる場合もあるし。でも一般的な薬では獣人族には効かないんだー」 作られた存在を生み出すためには遺伝子を操作するしかなかった。 その際に薬の抗体が生み出されてしまったとヴァンは聞いている。 「俺はその血が半減されてるから平気なほうなんだけど……やっぱり嫌じゃん。死んでく者を放っておくのは」 カナタは空を見上げた。掴みかけたものが離れていく、そんな感情を彼は何度も味わった。 「だから異種族の医者になったんだよ。薬の開発とかにはやっぱり金が必要じゃん? 俺が紅月に入ったのは金目当てってわけ」 「そっか……」 自分が紅月に入った理由をヴァンは改めて考えてみた。 だが思い出せない。あの頃は頭が世界の中心だったからだろうか―― 「お前だって、護りたいやつ1人はいるだろ?」 カナタの問いにヴァンは口篭った。 護りたい者――それをちゃんと考えたことは無かったからだ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― |