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第3章 25話 天の調べ〜2人の少年〜 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 少年が次に目を開いたときは真っ白な世界にいた。 現実なのか夢なのかはっきりしないでいる。 『――君を待っていた』 後ろから自分と同じ声がささやいた。振り返ってみればそこには自分自身がいた。ただ違うのは瞳の色――もう一人の自分は真紅の瞳だった。 「……なんで」 『俺はもう一人の君だよ、ジルハ=アロン』 口調が自分と違う、そして不敵な笑みを見せてきたからか、ジルハは一歩引いた。もう一人の自分の手は何故か瞳同様の色で染まっていた。 『正確には魔族化のときの君。でも君の感情のほうが強いから支配されてて出れたことはないけれど……』 「やめろっ!」 『何故? 本当のことだろう。だったらその手に染まっているのは何?』 ジルハは震えている手を愕然としながら見つめた。今までの魔族化したときも怒りに身を任せていた結果だ。 『認めなよ。君がしたことを』 「認めるもんか……」 『認めれば君は罪を背負うかもしれない。けれど"力"は得られる』 彼の存在を認めることを拒むしかなかった。得るのは大きな力――自分には必要な力なのかもしれない。 国を復興させるのにも自分は無力すぎた。だが彼自身、魔族化した時の記憶はない。 けれど認めれば自分がしたことの罪を背負う。得た力の変わりに自分は何かを失ってしまうのが直感的に解った。 『……まだ早すぎたね』 するともう一人の自分は真っ白の空間に溶け込むかのように、少しずつ身体が薄れていき姿を消していった。 悲しそうな瞳はジルハを刺すかのように残して―― 『ずっと……待っている』 そう言葉を残していったが今のジルハは素直に受け止められるはずがなかった。ただ自分を護るかのように拒絶するのみだった。 「俺は……」 不意に零れた涙の雫は真っ白の空間のどこに零れたかは解らなかった。 今の自分は弱い――そう言われたら認めるしかないだろう。 *…*…*…*…* 「用は……これだけじゃないんだろ?」 ヴァンが察したことは間違ってはいなかった。元の人界の場へと戻ってきた直後だった。 問いかけると夢巫女はゆっくりと目を閉じ覚悟を決めたようだ。 「貴方にこれを託そうと思いまして――」 夢巫女の両手がそっと自分の片手に覆いかぶさる。小さい手が離れると手の平には菱形の白い石が鈍く光っている。 「……なんだこれ」 だが雰囲気で何となく理解できる。形は違っていてもユースの集めている封印石と同じ感じがした。どこか不吉そうで淋しい存在―― 「名は沢山在ります。白の魔石、陽のレプリカ、天界の封印石……多くの名が存在しています。 これは貴方方が集めている人界の封印石と同等のもの、蒼の石のように禍を及ぼすことはありません。微弱ながら保護する力を承っています。何時しかこれが必要なときが来るはずです」 「……未来を知っているからか?」 図星をつかれたなのだろうか、その言葉に夢巫女は黙りこんだ。未来を知るのが悪いことだとはいわない。だがこの会話も予定通りだとするといい気分はしなかった。 「これも定められた未来に過ぎません。もしここで渡さなくともこの石を受けに来るときがきます。妾は……未来に逆らうことはできない定めです」 未来に逆らうことをしたら夢巫女はどうなるのかは知ったことではなかった。だが結局は予定調和に物事は過ぎていく。ヴァンは思い切って気になっていたことをぶちまけた。 「……さっきユースの未来だけは解らないって言ってたよな? 教えてくれ、本当の意味は何なんだ」 あの場でそういわれていたとき何か違和感があった。たくさんの未来が交叉しあっていると夢巫女は言った。 だがそれは交叉した未来の行き着くところは総て同じなのではないかと―― 「エルエンは最も異様な一族です。護ってきたものの力を大きく影響しています。 その力は妾よりも遥かに優る。その力をどう使うかはエルエン次第です。……だから"呪"をかけたのでしょう。もし石を集めきり己の欲を叶えてしまえば、 人界を始とする3つの世界はどうなるか解りません」 「けどあいつはっ……そんなこと望んでなんかいない……」 ユースはそんな奴ではないとヴァンは心の底から叫んだ。いつだって自分を犠牲にしてまで人を、使命を護ろうと必死だった彼女を。 綺麗事に過ぎないのかもしれないがユースを信じたい。 「それは本人でないと解りません。だからこそエルエンにこれを託してはいけないのです」 あくまでも夢巫女の口調はユースを否定的だった。やはり未来に何かがあるのだろう。 「でも……なんで俺なんかに渡すんだよ!? 俺みたいに血で穢れていて……人を利用しては裏切って……そんな奴なんかに…――」 実際なんどもそうしてきた。生きていくために必要なことだったかもしれない。 殺されるならその前に自分の手を紅く染めなくてはいけない。 そう考えると自分はとても汚い人間のように思えた。 人を殺したことはまだない。だけど何度も傷つけた。それだけでも―― 「これを貴方に渡すのには理由が有ります。貴方がエルエンに近しき者の中で一番良いと判断したからです」 「どういうことだ……」 一番良いとはどういったことがヴァンには解らなかった。人を"モノ"のように扱う夢巫女がどこか許せない。 けれど昔の自分も人を"モノ"として扱ってきたことを思い当たればなんとも言えない。 先ほどまでの両親にあわせてくれた夢巫女とは態度が違った。儚い存在だった彼女が次第に大きな指導者へと変わっていく。 「ランフォード族の彼女に託せば必然的にエルエンへと渡ります。貴方の親友でも悪くはないでしょうがまだ日が浅い」 「でも……俺だって裏切るかもしれないんだ……いつかあいつらを……」 最初から裏切るつもりでいた。とにかく利用してその後は見てみぬふりをするだけだった。 だがいつからだろうか、裏切るはずの場所が大切なものへと変わっていた。 「気には病まないでください。貴方は自分がそれを望んでいないことを知っているはずです。 己の心に素直になってください」 「自分の……心」 自分の心とちゃんと向き合えずにいるヴァンにとっては難しい話だった。 「この石をどうするかは貴方の自由です。お願いします、エルエンに渡らなければよいのです」 「解った……」 ヴァンは石を握り締めた。この石を持っているだけでよいのだろう。 それが未来に繋がるなら流されるままに流されればよい。踵を返すと彼は早足で部屋をが出ていった。 夢巫女にいらつきながら、自分にいらつきながら―― 一人部屋に残った夢巫女は小さな溜息をついた。 少年の心があまりにも複雑だったからだろうか、気疲れしてしまった。 「あと一つの理由はエルエンの中で貴方の存在が大きくなっているから……」 夢巫女はそっと呟くと天界への道を再度渡った。 人界の *…**……*…* 龍族が用意してくれた部屋の個室は殺風景だった。 ベッドは思ったよりもやわらかくヴァンはそこに仰向けに寝転がった。 菱形の石を右手で掲げると宝石のごとく輝いた。 「未来は……決まっているのか?」 自分の未来はどうなるのだろうか、不安がおさまらなかった。両目を閉じ暗闇のなか自分に問う。 <封印石を集めきってその後は?> <ユースは何かをまだ何かを隠しているのだろうか?> <自分はどうする気なのだろう?> 自問自答を繰り返しても答えはなかなかでなかった。 「……っ、わかんねぇよ……」 未来を見つめても総てを知るのは夢巫女だけだった。過去に憤りを振り払っても残るのは未来への不安だけだった。 そんな不安の中眠気が彼を襲った。連日の付が回ってきたのだろうか、 やりきれないそんな思いは遠い意識の中へ消えていった。 ――お前だって、護りたいやつ1人はいるだろ? カナタの言葉が頭の中で駆け巡る。 自分が誰を護りたいのか解りかけたような気がした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― |