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第3章 28話 追憶の時〜暁鐘の慈しみ〜 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「なんで俺が……っ!」 ヴァンは一人飛空艇の甲板に立っていた。 ユースとアーチェ、レウィーとカナタはそれぞれ情報を集めに行っている。 つまりヴァンは留守番として残っているのだ。 「確かにあの国には入りたくねーけどさ……」 何か納得がいかなかった。レウィーは情報を持ってきた張本人だから行くのはわかるが カナタは絶対に情報よりも女を口説く事に躍起になるだろう。 でもユースの「そこから聞きだせると思いません?」という一言にやられた。 アーチェはもともと護人だからユースといるのは当たり前。 だったら自分は? とヴァンは思ってしまうのだ。 ――人に訊ける態度じゃないからだろうな、と思ってしまう自分が悲しかった。 指導者を失った国、そんな国は人界に腐るほどあるかもしれない。故郷もそれに似たようなものだ。 だが生きていくためには何か行動を起こさなければならない。現在故郷であるルーガスは"紅月"が統制しているのだから。 いつの間にかぶつぶつと言っていた。 自分の独り言が段々増えてくるのに気がつきヴァンは口をふさいだ 寝転がろうにも今回ばかりは寝るわけにもいかない。 仕方が無くアーチェから渡された小形の双眼鏡であたりを見回した。 「……ん、花火か?」 打ち上げられた小さな火花をヴァンは見逃さなかった。 何か祭りでもあるのだろうか、だがサイカを外から見ると何処か廃れている。 そんなところで祭を行えるのだろうか。 *…*……*…* 「なんでそんなことになってんの?」 ユースから説明された現状、やっぱりついていけばよかったと思ってしまう。 談話室から見えるサイカの国。夜のせいもあるがどんよりと暗い雰囲気だ。 「確かに封印石が反応しました。姫は生きているのではなく……石の力による幻影に近いでしょうね」 「封印石ってそこまでできるのか……?」 その力に不快感を覚えてしまう。小さな欠片1つでここまでことが進んでいる。 「この国は一回、他国との争いで荒れたはず……なのに数年でここまで復興しているとはとても思えません」 「……あれが全て嘘ってこと?」 「残った者達が思い起こした幻想に……封印石の力が働いてしまったのかもしれませんね」 「幻想……なるほどね」 強い想いは封印石の力に同調しやすい。それはレウィーが一番良く解っていることだった。 自分の親友がそれに囚われたように街の人も過去に囚われている。それを抜け出すのは容易なことではない。 「だとしたらー……欠片をとったらあの姫とか消えるんだろうな」 カナタの言葉に一同は一斉に黙った。石を取れば姫は消える、確かにその通りだろう。 「私は……」 「俺は早く取ったほうが良いと思う……もしここで躊躇ったらさぁ、 結局あの国の人が逃げてるのを見てみぬフリをしてるだけだろう? ちゃんとさ……現実見ないとだめだと思う……」 ヴァンは自分とあの国を重ねた。両親が殺されたのを認められなくて記憶を閉ざしたあの日のように、 サイカの国民も逃げているように見えた。 「ちゃんと……解放してあげないとね」 「ユース様……」 「解っています……ですが私たちにそんな権限があるのでしょうか? 確かに封印石が関わっているのは事実ですしそれを集めるのは私の義務です。ですが……今回の件は人の幸せを奪う形になってしまうかもしれません……」 姫が消えたら国はどうなるだろうか、集めた情報では国を動かしているのは姫だった。それを奪う――国がまた滅ぶのと一緒だろう。 そんな不安が過ぎり、一同は口をつぐんだ。どうすれば解決できるのだろう。欠片をとれば国が、国を択べば使命が―― 「えっ……」 不意に窓の外を見てたヴァンが声を出した。 その声には驚きが混じっている。言葉につられユースも窓の外をみると思いがけない人物の姿があった。 「どうして……姫がここに?」 窓を開け下を見入るとそこにはあの姫がいた。 姫はこちらの姿を確認すると悲しそうな笑みを浮かべた。 そして踵を返し歩いていく。 「どういうことだ……」 「ついて来いって……ことでしょうか……」 自分達を知るはずのない姫がどうしてここに来ているのかは不思議だった。 もしかしたら封印石のことを彼女は知っているのかもしれない。だからきたのだろうか。 一同は素直に姫についていった。 刻は明け方に近いなか、国を歩いていく。 姫は一度も後ろを振り返ることなくゆっくりと歩いていった。 重たいドレスが砂で汚れようと気にしていない。 大鐘楼の登り階段、そこへようやくたどり着いた。 封印石が反応し階段の先に光の筋が現れる。 姫を通り抜け延々と続いていそうな階段の先は見えないが―― 「ここからは……私一人で行きます」 「お前っ……」 ユースの思いがけない発言にヴァンは動揺した。一人で行ってどうするというのだ。 「お願いします」 ユースの言葉に迷いは無かった。何かを押し隠し、必死な姿。 「解りました……必ず戻ってきてください」 「アーチェっ!」 ヴァンの反対を押し切りアーチェはそういい姫と同じように悲しそうな笑みを見せた。 そうさせられるとヴァンも反対しているわけにもいかない。 「有難う……アーチェ」 ――アーチェは私と違って優しいですから。 いつだか自分自身が発した言葉を思い出した。ずっとそうだ。自分が決意したことに反対されたことはない。唯見守っていてくれる。 ――1つだけ約束してください。無理はしない、と アーチェとの約束は破らない。 自分が招いたこと、10年前に自分のしたことを背負わなけらばならない。それを知らなければいけない、だから一人で行くのだから。 ユースは振り返らず暗い上へと続く階段を一人行った。 *…*……*…* 大鐘楼の最上階、そこには大きな鐘ではなく小さな鐘が1つだけ下がっている。 あの音色を発する鐘は今よりしたの階にあるのだろう。 高度がかなりあり、足場もかなり不安定だ。 低い天井を見上げると小さな鐘の装飾部に封印石が埋まっていた。 「貴女が望むのなら……私の能力で――」 姫は何も話さずただ首を横に小さく振る。そして悲しそうな顔つきで微笑んだ。 己の事を理解しているのだろうか、瞳は真っ直ぐだった。 「すみません……これは私の勝手な理想でしたね……」 人を生き返らすことはどうあってもできない。 今目の前にいる姫は封印石の力によって生み出された幻影だ。 実体化してしまった悲しい存在――それを助けなければならない。 ユースは光を発した欠片を手にし一つにまとめた。 球体へと近づいていく封印石の光が徐々におさまっていった。 石の力が切れたのか、姫の姿は次第に薄れていき、極彩色の光の中へ消えていった。 その場には姫が身に着けていた衣類のみが残った。 それを持ち上げるとペンダントが服から零れ落ちる。 忠誠を誓った証のものだろうか、ペンダントの先端にはランフォード族のマークが示されている。 かきむしるかのようにユースはそれを強く握り締めた。 このような形でしか封印石を得ることができないのが悔しかった。 「ごめんなさい……」 泣きたくても泣けない。泣いてはいけない。泣いたら負けてしまう。 それが胸のうちで木霊する。そんなことを思っている自分が弱くて嫌いだった。 そんな感情を掻き消すかのように鐘の音が鳴り響いた。 長々と響き渡る音は空高くまで届いているだろう。 同時に夜が明け、眩しい橙の光が国を照らしていった。 *…*……*…* 街に戻ってみると人々の姿がまれになっていた。 人通りの多い道だったこの場所でさえ行き交う人の姿はない。 綺麗すぎるほど整理された街も今は廃れている。 「これ……本当にあの街なの……?」 レウィーは息をのんだ。 現実はあまりにも残酷すぎた。残った人々は皆生気がなく佇んでいる。 「街も人も……みんな幻……」 鐘の音が鳴り響く。まるで"夢"が終わったのだと告げるかのように。 残ったのは悲しみに暮れる人だけだ。 封印石で生み出された思い出がこの世から過ぎ去っていくのを 見ていることしかできないもどかしさが残った。 人によっては禍が禍ではなくなる――思っていた以上だ。 風にのって聞こえてきたのは小さな泣き声だけだ。 小さな少女がユースの姿を見ると飛び込んできた。 サイカぶつかってきた幼い少女だ。 「みんな……いなくなっちゃった……」 むせび泣く姿が痛々しすぎてヴァンは思わず背けた。 残った大人たちはただその姿を見守るしかできない。 「ねぇ、みんなどこにいるの? 返して……返してぇ!!」 行き場の無い思いをぶつけてきた少女の瞳から止まることのない涙。 ユースの胸のうちで泣く姿を見ていてヴァンは胸が張り裂けそうだった。 ユースはただ彼女の八つ当たりを受け止めることしかあげることしかできなかった。 「生きなくてはだめ……生きなくてはなりません。残された人たちと共に、これからを……」 「でも……お父さんもお母さんもいないの……消えちゃったんだよ……」 「……2人ともあなたが幸せになることを望んでいるはずです。だから今を生きていかないといけません。辛いことがあって挫いてしまっても前へ進まないと……」 ユースの言葉は自分にも言い聞かせているように聞こえた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― |